第2回ネットワーキングセミナー 「多様な視点」で潜在ニーズを見出そう!! -問題解決型ものづくりとマネジメント-

―デザインが拓く、持続可能な未来―
サスティーンナゴヤ
ネットワーキングセミナー
2025年11月14日(金)、公益財団法人 名古屋産業振興公社 国際デザインセンター/名古屋市新事業支援センター主催の「第2回ネットワーキングセミナー 「多様な視点」で潜在ニーズを見出そう!! -問題解決型ものづくりとマネジメント-」が開催されました。
このイベントは、デザインの力を活用して持続可能なビジネス展開を目指す中小企業を支援する「サスティーンナゴヤ」プロジェクトの一環として行われたものです。
当日は、令和6年度の支援企業2社による実践事例と、令和7年度の支援企業1社を交えたクロストークを通じて、デザイナーの伴走支援がどのように新たな市場や価値の創出につながるかが共有されました。
特に第2部のクロストークを通じて、ジェンダー、世代、部署の壁など既存の枠組みにとらわれず「多様な視点」を取り入れるためのヒントが語られました。
基本情報
| 開催日時 | 2025年11月14日(金) 13:00-16:00(開場12:30) |
| 会場 | デザインギャラリー 〒460-0008 名古屋市中区栄3-18-1 ナディアパーク・デザインセンタービル4階 |
| 登壇企業(プレゼンテーション順) | 株式会社Spica(R6年度支援企業) 株式会社ファースト(R6年度支援企業) アルプススチール株式会社(R7年度支援企業) |
| クロストークファシリテーター | 岡田 心(大同大学 情報学部 情報デザイン学科 教授) 横地 洋介(ヨコチデザインスタジオ デザイナー) |
| MC | 深谷 里奈(フリーアナウンサー) |
第一部:
サステナブルに向けた
取り組みの紹介
イベント第一部では、それぞれの企業が直面した課題や、新たな視点の活かし方、違和感から生まれた発見などについて語られました。
一人ひとりに安心を
困りごとに光を

株式会社Spica
R6年度支援企業
プレゼンター:代表取締役 ばん さやか 氏
代表自身の出産・育児経験、福祉のバックグラウンド、そして町工場の技術を掛け合わせて設立されたSpica。出産の現場で聞かれる言葉をキーワードに、フェムテック商品の開発を行っています。
フェムテック商品開発の背景
出産の現場で頻繁に聞かれる、パートナーのいきみのがしに対する妊婦さんの「そこじゃない!」という言葉。良かれと思ってサポートしても、実際のニーズとのミスマッチが起こってしまう。Spicaは、このミスマッチを解決するために立ち上げられました。そして、産痛緩和のための専用器具「まさポ」を開発しました。

Spicaのものづくりの背景には、代表の配偶者が経営する町工場での自由研究的な開発があります。
新しいもの好きで、とにかく何か作ってみる、という開発姿勢により、多くの失敗を重ねました。
この寄り道や失敗こそが、多様な技術と知見を積み重ね、ゼロイチを生む土台となりました。
特に、医療機器開発での大きな失敗から「現場で求められるのはもっとシンプルなものではないか」という気づきを得ました。
転機となったのは、看護師による困りごとニーズ発表会への出席です。出産時の痛み逃しには、テニスボールが使われることが多いのですが「本当にそれでいいのか」という現場の声を、ものづくりと結びつけることで、新たなプロダクト開発へと進んでいきました。
伴走支援での取り組み

開発は、代表の出産経験と、配偶者のエンジニアリングを5対5で結合させ、「誰のためにどうありたいか」という軸を関係者と共有することから始まりました。
さらに大学生とのアイデア出しから生まれたギフトボックスの開発にも共同で取り組みました。
今後、出産や子育てというライフステージに臨む若い世代の感性を取り入れることは、多くの可能性を感じさせてくれる有意義な時間となりました。
デザイン経営の実践と展望
最終的に辿り着いた価値観は「野心ではなく安心」でした。高度な技術を追い求めるのではなく、関わる人が安心できる形で貢献すること、それがSpicaの判断基準です。
少し不便で見過ごされがちな課題の中にも、実は多くの困っている人がいます。その方々に寄り添う視点こそが、社会の安心を未来へつなぐ真のサステナビリティであると実感しています。


顧客ファーストが
サステナブルに

株式会社ファースト
R6年度支援企業
プレゼンター:販売促進グループ 樋田 睦 氏
「デザインのいい街で暮らしたい」という理念のもと、サインディスプレイを製造・販売するファースト。顧客に寄り添いながら、人の目を引きつけ情報を伝えるツールを、最適な形にして提供しています。
顧客のニーズを形にする製品デザイン
競技場などの誘導サイン、シェアサイクルの案内、飲食店の看板、駅のデジタルサイネージなど、日常生活の随所で活躍しています。
発売から20年以上経つロングセラー商品「スタンドプレート」は、表示面や柱、ベースを自由に組み合わせてカスタマイズできる構造を実現。従業員30名という小規模体制だからこそ、顧客の「伝えたい」を最適な形で実現できる、柔軟な製品開発とサポート体制を心がけています。

営業現場の工夫と顧客の声の活用

自身の販売部門での10年以上の経験の中で力を入れてきたのは、『新しい切り口を作る』ことと『お客様の声に応える』ことでした。
カテゴリーではなく、白・黒などの『色』をテーマに、お客様が使用シーンを具体的にイメージしながら、安心して選べるような活動を行ってきました。
また、お客様の店舗づくりをサポートするブランド「カンバン女子」では、新たな視点で商品の魅力発信に取り組んでいます。
顧客志向が改善と成果を生む
現在は、仕入れ・材料調達部門で梱包材の改善に取り組んでいます。
営業で培った『お客様の声に耳を傾け、改善する』というスタンスは、調達部門でのコスト改善でも役に立っています。個々の工夫が組織全体の成果として見えてくることが、改善への動力となっています。


活躍できる環境が
新商品を創る

アルプススチール株式会社
R7年度支援企業
プレゼンター:代表取締役 長谷川 茂 氏
スチール製オフィス家具の専門メーカーとして、ロッカーや書庫を提供するアルプススチール。『人材は人財』という経営方針のもと、社員一人ひとりが輝き続けられるような取り組みを推進しています。
自社の見つめなおしからスタート
アルプススチールで働く従業員約160名のうち、約30%が女性です。
製造現場で働く社員もおり、経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」や厚生労働省の「えるぼし認定」など、複数の行政認定を受けてきました。
ところが、女性活躍の掛け声のわりに、女性だけで開発した製品が1つもないということに気づきました。

これは「女性活躍が見かけ倒しではないか」という、そもそもを問うことにつながりました。そこで女性だけのチームを編成し、商品開発に取り組むことを決めたのです。
商品開発のプロセス

リーダーに課した条件は「各年代からピックアップし、年代が偏らないように」という指示のみで、あとは自由に開発を進めてもらいました。
自分に相談に来るのは、金型起こしなどの経費が必要な局面だけ——その過程で、女性ならではのアイデアが次々と形になります。
カバンが床に置くと型が崩れるから専用ハンガー、大きな鏡を斜めに設置して見やすく、髪ゴムが引っかけられるスリット、ブーツが収納できる構造、合わせやすいように縦型ダイヤル錠を搭載。
細部まで工夫された女性専用ロッカー「Keula(ケウラ)」が完成しました。
その後の展望と取り組み
開発から数年後、Keulaは東京近郊の大型テーマパークのスタッフ更衣室に採用されました。開発チームは達成感を感じたことでしょう。歓喜の声であふれていました。
その後は、男女混同・若者中心でチームを創設。一般家庭向けロッカー「LEGRO(レグロ)」の開発に着手しました。また、ペーパーレス化など時代の変化に対応しながら、顧客ニーズに合わせたチャレンジを継続しています。


第二部:クロストーク
『異物』が混ざり合うことで生まれる価値
イベント第二部ではファシリテーターの岡田心氏、横地洋介氏が加わります。
各社の取り組みを「異物(異なる視点を持つ存在)」というキーワードで深掘りし、多様な視点について意見交換しました。
ファシリテーター

岡田 心 氏
大同大学 情報学部 情報デザイン学科 教授
1975年愛知県生まれ。名古屋芸術大学美術学部デザイン科卒業後、自転車メーカー、キッチンメーカー、オフィス家具メーカーを経て2005年にフラップデザインスタジオを設立。印鑑から仏具、神具、食器、提灯、樋、枡、水栓器具、自転車、スポーツ用品、調理器具など各地で伝統産業や中小企業と共に育てる商品開発を心がけ、さまざまな製品デザインを手がける。

横地 洋介 氏
ヨコチデザインスタジオ デザイナー
1994年愛知県名古屋市生まれ。大同大学情報学部情報デザイン学科を卒業後、美容健康メーカーに勤務し、カタログやWebを中心とした通販業界向けの商品企画と販売を行う。2022年にヨコチデザインスタジオを設立。ジャンルを問わず、企業との商品企画やデザイン、イベント運営などを行う。
MC

深谷 里奈 氏
フリーアナウンサー
アナウンサーとして東海ラジオ入局。20年勤務ののち現在はフリーアナウンサーとして活動する傍ら、大学や企業で表現とコミュニケーションの極意を伝道中!
素人の視点がミスマッチを解消する
Spicaのいきみのがし商品「まさポ」開発についてからトークがスタート。製造業経験のない女性(ばん氏)と、出産経験のない男性(配偶者)での開発という、当たり前すぎて気づきにくいところに焦点が当たりました。
横地氏:「まさポ」は、展示会や商談の際、男性と女性で反応の違いはありますか?
ばん氏:はい。女性で出産経験のある方からは強い共感をいただけますが、男性は少し気恥ずかしそうにされたりします。フェムテックという言葉は浸透しても、男性にとってはまだハードルが高いのが現状だと感じます。
岡田氏:第一部で、ミスマッチという言葉がありましたが、具体的にはどんなミスマッチがあったのでしょうか?
ばん氏:『痛い』という感覚は出産する本人にしか分からないのですが、パートナーは何とかしてあげたい気持ちはあるのに行動が違ってしまい、「そうじゃない!」と言われてしまうミスマッチですね。

実は、開発の段階でもミスマッチの解消が必要でした。私は製造業の経験がなく、夫は出産の経験がない。私はユーザーとして「痛い」「使わない」など率直な意見を出して開発を進めました。空気を読むのではなく、使う側の視点で答えたと言えたことが、結果的に製品の精度や技術を高めました。
横地氏:分からない人が、分からないなりに近づいていくことが重要だったわけですね。学生さんと共同開発もされましたが、印象に残ることはありましたか?
ばん氏:はい。私はスマホがない時代に子育てをしていましたが、今の若い世代は情報収集能力も高く、男性の育児参加に対する意識も私たちの時代とは全く違います。「子育ては男女で取り組むのが当たり前」という感覚を肌で感じました。
岡田氏:今の学生たちにとっては男性が関わるのは、当たり前なんですね。

「できないと言わない」社風が1,000超の商品を生む
続いて、看板やディスプレイ用品を扱う株式会社ファーストの「特注対応」から生まれる商品開発の強みについて話が展開しました。
横地氏:ファーストさんは既存商品だけで1,000点を超えていますが、さらに「特注」も強みとされています。そうした開発の種はどこで見つけているのでしょうか?
樋田氏:私が配属された部署には、先輩たちから受け継がれた『家訓』のようなものがありまして(笑)。「できないと言わない」「確認なしに断らない」などが書いてあるんです。それをデスクに置いて、お客様からの「こういうのできませんか?」という問い合わせに対応してきました。
「こうすればできるかも」と繰り返しているうちに、他社に断られたお客様が集まるようになり、気づけば商品ができていました。

岡田氏:カタログの中で「特定のカラーだけ集める」とか「風に強い商品」といった特集が組まれていましたが、これもお客様の声からですか?
樋田氏:そうです。「特注で黒にできませんか?」「看板をもっと重くしたい」といった問い合わせが増えてきたのをきっかけに特集を組みました。中には私の好みで、カタログに埋もれている「可愛い商品」を特集したこともあります(笑)。
横地氏:「自分の好きな商品を救い上げたい」というのが素敵ですね。結果として、お客様の潜在的なニーズとマッチしているのが面白いです。
深谷氏:愛社精神を感じますね!

組織を活性化するのは新しい風を信じること
アルプススチール株式会社では、女性チームや若手社員による開発が進められています。長谷川社長と今年度、伴走支援参加企業、加藤氏による掛け合いで会場が沸きました。

横地氏:アルプススチールさんは、コロナ禍での「抗ウイルスロッカー」など、時代のトレンドや新しいターゲット層に向けた企画を次々と出されていますね。
長谷川氏:実は思いつきで作ったものが多いんですよ(笑)。
私が外に出る機会が減ったので、営業や社員が仕入れてきた情報を聞いて「それ、いいんじゃないか」とアドバイスするスタイルです。
ただ、社長がいいと言っても、社内から「売れない」と反対されることもありますね。
Keula開発のときは、女性チームを信じて口を出さず、2年間決裁だけに徹していました(笑)。
岡田氏:加藤さんのような若い方の存在は、社長にとってどのようなものでしょうか?
長谷川氏:今までの会社にはいない頭脳、ですね。私たちが思いつかないようなアイデアをスピーディーに提案してくれます。
加藤氏:社長は「失敗してもいいからフルスイングしろ」と言ってくれます。ですので、その応援を受けて、社内へ刺激を持ち帰るという立ち位置で動かせてもらっている感じです。
岡田氏:女性社員だけでの商品開発も含め、会社に「チャレンジすることを評価する」という考えが浸透しているんですね。

「異物」を受け入れることが、組織を強くする
最後は、ファシリテーターのデザイナー視点から、3社に共通する『異物』という概念について議論されました。

岡田氏:3社に共通するのは、組織の中にいる『異物』をどう扱うか、という視点だと感じました。異物というのは、決してネガティブな意味ではなく、自分たちとは異なる視点や価値観を持った存在のことです。
横地氏:そうですね。
Spicaは「素人の視点」、ファーストは「お客様の視点」、アルプススチールは「新しくチャレンジする視点」。
それぞれが組織やプロジェクトにおける『異物』として機能し、既存の枠組みを壊して新しい価値を生み出していると思いました。
岡田氏:デザイナーを入れることも一つの『異物』を取り入れる方法ですが、実は社内にもたくさんいるはずなんです。部署が違う人、年代が違う人、あるいはまだ声なき声。それらをノイズとして排除するのではなく、どう面白がって引き上げるか。
横地氏:分からないからこそ、対話が大切になりますね。それが、問題解決やデザイン経営の第一歩になるのではないでしょうか。
多様性が循環するサステナブル経営へ
今回のセミナーからは、異なる視点(異物)を受け入れ、混ぜ合わせることで新しいアイデア創出や組織の新陳代謝の促進につながるということが見えてきました。また、SDGsや環境経営の観点の示唆も含まれています。
- 「人」のサステナビリティ:Spicaやアルプススチールのように、性別や役割の固定観念を取り払うことで、埋もれていた違和感が整理された。多様な人材の参加は、イノベーションを生むだけでなく、誰もが能力を発揮し続けられる組織づくり(ディーセント・ワーク)にも直結する。
- 「資源」のサステナビリティ:1,000点もの既存資源を活用し、新しい視点での価値を加えたファーストの取り組みは、環境負荷を抑えたサステナブルなビジネスモデルにもつながる。
異なる価値観を持つ人々が働き、互いの『違い』を楽しみながら、資源を最大限に活かして社会に必要な価値を生み出し続ける大切さに気づけるようなセミナーでした。
登壇企業情報

株式会社Spica
私たちは、人々の生活をより豊かに、便利にする製品を開発することを目指しています。そのために、常に新しい技術やアイデアを追求し、お客様のニーズに応える製品の開発に取り組んでいます。

株式会社ファースト
サイン・ディスプレイ・デジタルサイネージの株式会社ファーストは、「デザインのいい街で暮らしたい。」を企業行動指針とし、ディスプレイとサインを通じて、デザインのいい街づくりに貢献してまいります。

アルプススチール株式会社
アルプススチール株式会社は、スチール製オフィス家具の専門メーカーとして、高度な板金加工技術を駆使しロッカーや書庫を提供しています。
電子制御式や特注品の製造にも幅広く対応しています。人財育成に力を入れ、働き方などについての各種認証を受けています。
