第1回ネットワーキングセミナー「デザイン経営」を取り入れ、持続可能な組織づくりを目指す! -「地元ブランディング」から学ぶサステナブル経営-

―デザインが拓く、持続可能な未来―
サスティーンナゴヤ
ネットワーキングセミナー
2025年6月30日(月)、公益財団法人 名古屋産業振興公社 国際デザインセンター/名古屋市新事業支援センター主催の「第1回ネットワーキングセミナー「デザイン経営」を取り入れ、持続可能な組織づくりを目指す! -地元ブランディングから学ぶサステナブル経営-」が開催されました。
このイベントは、デザインの力を活用して持続可能なビジネス展開を目指す中小企業を支援する「サスティーンナゴヤ」プロジェクトの一環として行われたものです。
当日は、デザイナーの伴走支援を受けた企業や、地元ブランディングの先駆者として活躍する企業が登壇。それぞれの挑戦や成功の裏側にあるストーリーを共有し、デザインがもたらす可能性についての議論が交わされました。
本レポートでは、伝統産業の新たな挑戦から、地域全体を巻き込むまちづくりまで、サステナブル実現に向けたセミナーの様子を、第一部の事例紹介と第二部のクロストークを合わせてお届けします。
基本情報
| 開催日時 | 2025年6月30日(月) 17:00-20:00(開場16:30) |
| 会場 | デザインギャラリー 〒460-0008 名古屋市中区栄3-18-1 ナディアパーク・デザインセンタービル4階 |
| 登壇企業(プレゼンテーション順) | 有限会社麩柳商店(R6年度支援企業) 新元湯(R6年度支援企業) 株式会社レジスタ |
| クロストークファシリテーター | 岡田 心(大同大学 情報学部 情報デザイン学科 教授) 横地 洋介(ヨコチデザインスタジオ デザイナー) |
| MC | 深谷 里奈(フリーアナウンサー) |
第一部:
サステナブルに向けた
取り組みの紹介
イベント第一部では「デザイン経営」「地元ブランディング」をテーマに、3社がそれぞれの取り組みについてプレゼンテーションを行いました。
伝統と革新が融合した
進化系生麩

有限会社麩柳商店
R6年度支援企業
プレゼンター:専務 新井 智久 氏
明治10年創業の歴史を持つ、生麩製造の老舗、麩柳商店。
コロナ禍を機に、従来のBtoB中心の事業に加え、BtoCへの挑戦を開始しました。
直面した課題とターニングポイント
BtoC開始直後は「生麩の調理方法が分からない」「パッケージが業務的」という消費者の声に直面し、思うように成果が出ませんでした。

そこで、まず自社で調理ハードルの解消に着手。こし餡一種類だった「麩まんじゅう」のバリエーションを増やしたり、焼かずにそのまま楽しめる「生麩のみたらし」など、食べ方まで提案できる商品の開発を進めました。
この取り組みが、イベントで出会ったデザイナーから「伝統的な生麩を新しい形にしたのは革新的」と評価を受け、サスティーンナゴヤの伴走支援への参加を勧められます。
伴走支援での取り組み

伴走支援では、デザイナーや中小企業診断士と連携し、ヒアリングやSWOT分析等を通じて自社の強みを言語化。
コアコンセプトを“伝統と革新“に定め、新ブランド「那古野麩(なごやふ)」を立ち上げました。
ラベルやパッケージも、物語性とデザイン性を兼ね備えたものへと刷新しています。
デザイン経営の実践と展望
取り組み後は、社内でも評価が高まり、職人を中心に、未来への意識改革と自信につながりました。
成果として、名古屋の大型百貨店での催事出店という新たな販路開拓に結びつき、これまで接点のなかった顧客層との出会いが生まれています。
老舗が未来に向けてブランド価値を高め、デザイン経営への一歩を踏み出した事例が語られました。


地域の宝の銭湯を
未来へつなぐ

新元湯
R6年度支援企業
プレゼンター:M1_Project プロデューサー 杉野 実 氏(新元湯 伴走支援担当デザイナー)
名古屋市中川区の下之一色町に佇む、大正13年創業の銭湯、新元湯。
下之一色町は、かつて魚市場と商店街で賑わった漁師町です。最盛期は7軒を超す銭湯がありましたが、現存するのは新元湯ただ一軒となりました。
建物は名古屋市の認定地域建造物資産に登録され、レトロな趣を残しています。
課題と経営資源
利用客は地元を中心とした一日数人程度。設備の老朽化、後継者不在、燃料代高騰という厳しい状況である。
こうした状況を受け、半年間の伴走支援では、経営の実態を可視化。公衆浴場料金などの制約を踏まえながら、無理なく営業を続けるための具体的な取り組みを設計しました。

伴走支援での取り組み
| 営業時間の最適化 | 調査データによると銭湯利用者は夜間利用が多いため、効率化を図り営業時間を16〜22時に変更。営業日数は限定としたまま制限し燃料代を抑える。 |
| 貸切・施設貸出 | 一般入浴枠に加え、時間制での貸切と、撮影・イベント等向けの施設貸出サービスを新たな収益源に。 |
| 体験価値の底上げ | 瓶牛乳・ラムネ・石鹸などを提供。設備も最小限の修理のみで、レトロな雰囲気を残して体験価値を上げる。 |
| 不定休、電話対応の弱点解消 | 公式ホームページ+営業カレンダーを整備。店主にメールやSNSの使い方をサポートし、顧客対応の幅を広げる。 |
デザイン経営の実践と展望
取り組み後は地元顧客だけでなく、県外の方や学生を含む、夜間の新規客が増えつつあります。消えゆく運命だった銭湯が、店主の「残していく」という強い思いと、外部の専門家の視点により、持続可能な仕組みを取り入れて地域の宝として再生を図るモデルが紹介されました。


地域を主語に
課題を解決する
「まちづくり」のデザイン

株式会社レジスタ
プレゼンター:代表取締役 千賀 信義 氏
「地元ブランディングの先駆者」として登壇したレジスタ。拠点を構える名古屋市・東別院エリアの寺町フィールドに、歴史資源を活かした地域づくりを進めています。
地域×デザイン×課題解決
代表例が「名古屋アンティークマーケット」。東別院が江戸期に古物・古鉄の専売権を得ていた歴史に着目し、2017年から開催している現代版の蚤の市です。町内4カ所に会場を分け、町歩きツアーも組み合わせて、寺だけでなく地域全体に人を呼び込む仕組みとなっています。
他にも、NAGOYA CITY LABでの寺町×スタートアップの実証実験や、老舗和紙店のリブランディング/海外の見本市への出展など、課題解決のプロセスとしてデザインと事業運営を連続させる取り組みが紹介されました。

責任から愛着へ 地域に根ざすサステナブル
千賀氏が強調したのは、「自社の課題」と「地域の課題」を結びつけ、地域を主語に考えることの大切さです。その発想が、住民・企業・行政・ボランティアなどの人々を動かし、やがて大きなムーブメントに発展していくといいます。
お寺は地域の人々にとって心のよりどころであり、長い歴史の中で「離れられない責任」を背負っています。しかし、祭りや朝市、マーケットといった取り組みを通じて、多くの人が地域に関わり続けることで、住民自身が「この町から離れたくない」と感じるようになります。義務から愛着への反転を経ながら、コミュニティもビジネスもサステナブルにしていくための知見が共有されました。


第二部:クロストーク
成功の鍵は「価値の再発見」
と「外部の視点」
イベント第二部ではファシリテーターとして、岡田心氏、横地洋介氏が加わり、各社の取り組みについてさらに深掘り。
デザインがもたらす価値の変化や、地域資源の活かし方について、活発な議論が展開されました。
ファシリテーター

岡田 心 氏
大同大学 情報学部 情報デザイン学科 教授
1975年愛知県生まれ。名古屋芸術大学美術学部デザイン科卒業後、自転車メーカー、キッチンメーカー、オフィス家具メーカーを経て2005年にフラップデザインスタジオを設立。印鑑から仏具、神具、食器、提灯、樋、枡、水栓器具、自転車、スポーツ用品、調理器具など各地で伝統産業や中小企業と共に育てる商品開発を心がけ、さまざまな製品デザインを手がける。

横地 洋介 氏
ヨコチデザインスタジオ デザイナー
1994年愛知県名古屋市生まれ。大同大学情報学部情報デザイン学科を卒業後、美容健康メーカーに勤務し、カタログやWebを中心とした通販業界向けの商品企画と販売を行う。2022年にヨコチデザインスタジオを設立。ジャンルを問わず、企業との商品企画やデザイン、イベント運営などを行う。
MC

深谷 里奈 氏
フリーアナウンサー
アナウンサーとして東海ラジオ入局。20年勤務ののち現在はフリーアナウンサーとして活動する傍ら、大学や企業で表現とコミュニケーションの極意を伝道中!
見過ごされる「価値」に光を当てる
議論は、身近にありながら意識されていなかった「生麩」の存在から始まりました。そこから、事業の「見えない価値」をどう掘り起こすかというテーマへと発展します。

岡田氏:麩柳商店さんの工場を見学したとき、日常生活のどこでお麩と出会うのか、という話をしたんです。その後、いただいた生麩を冷蔵庫にしまおうと思ったら、角麩がありまして。実は家でよく食べていたんです。
僕たちは知らないうちに地域の産品に触れている。この当たり前に気づくことが大切だと感じました。
新井氏:私は自分の会社に入る前は、仕出し弁当とかに入っている生麩を、どこのものか知らずに食べていました。入社して初めて「うちの商品だったのか!」と驚いたくらいです(笑)。
横地氏:はじめて麩柳商店さんを見学した時は気にもしていませんでしたが、お麩の作り方の話を聞いて、木型の存在を知った後だと、「あ、これも木型だ!」と、新しい価値が見えてくる。知ることで、見える世界が変わるというのを実感しました。
杉野氏:新元湯では、僕らが「このベビーベッド、レトロで価値がありますよ!」って言ってるそばから、店主が「邪魔だから」ってノコギリで切っちゃったりする(笑)。それくらい、中にいる人にとっては当たり前すぎて価値が見えなくなっているんです。
「意識を変える」プロセスとしてのデザイン
デザインが単なる見た目の刷新だけでなく、関わる人の意識や行動をどう変えていったのか、具体的なエピソードが語られました。
横地氏:新井さんにお聞きしたいのですが、「麩まんじゅう」を開発されたきっかけは何だったのでしょうか?
新井氏:BtoCのお客様から「生麩は好きだけど、どう調理すればいいか分からない」という声を多くいただいたことが出発点でした。
BtoBでは直接の声を聞く機会が少なく、しかも懐石料理のように料理人が調理する前提で使われるため、生麩はあくまで“素材”の位置づけだということにも気づきました。
若い方のニーズを掴まないと、生麩の未来はないとも感じていました。そこで発想を転換し、「調理しなくてもそのまま楽しめるスイーツ」として商品化することにしたんです。SNS映えなども意識しましたね。

岡田氏:そうした声から生まれた商品が、デザイナーさんの手でパッケージ化されたわけですが、それによって社内にどんな変化がありましたか?
新井氏:デザイナーさんから「伝統的な製法を守りながら新しいスイーツを作るのは”伝統と革新”ですよ」と言われて、ハッとしました。自分たちでは当たり前だと思っていたことが、ストーリーになるんだと気づきました。デザインで、まず自分たちの意識が変わったおかげで、販路開拓の提案も自信を持ってできるようになりました。
杉野氏:新元湯も、最初は地元の人のためだけに細々と続けていく予定でした。でも、建築の専門家から「この建物は残すべき宝だ」と言われ、取材も入るようになった。そうやって外部から評価されたり、伴走支援でデザインを作っていくうちに、店主の意識が、守りからワクワクへと変わりました。今では旅行会社へインバウンド向けの売り込みを考え出すほど積極的になっています。
地域を主語にすると、仲間と資源が集まる
千賀氏の「まちづくり」のプレゼンテーションを振り返り、単発イベントにとどめず、地域全体へ広げて持続可能な関係性をどのようにデザインしていくかが語られました。

岡田氏:千賀さんの活動は、どうやって事業として成り立たせていくんですか?最初から収益になっているわけではないですよね?
千賀氏:なってないです(笑)。最初は「面白そう」と思う人や場所に自分たちから関わっていきます。でも、「この地域を良くしたい」と主語を大きくすると、「実はうちの会社も…」「私にこんなことができます」と、地域の課題や資源、やりたいことが自然と集まってくるんです。そこから事業の種が生まれます。
横地氏:ボランティアの方々も非常に多く参加されていますが、どうやって集めているのですか?
千賀氏:特別な募集はあまりしていません。「名古屋アンティークマーケット」は、Instagramのフォロワーが4万人ほどいるので、そこでの呼びかけもありますが、多くは口コミです。「町の力になりたい」「アンティークが好き」「おもしろいことがしたい」という共通の熱意を持つ人が、友達を連れてきてくれる。私たちも、一緒に楽しむ仲間として接しています。活動後にみんなでご飯を食べに行ったり。
そういう見返りを求めない関係性が、活動の輪を広げているんだと思います。自分たちの利益だけを考えていては生まれなかった信頼関係が、イベントの成功や新しい企画の土台になっています。
杉野氏:新元湯の店主も、銭湯よりも「下之一色の町をどうにかしたい」という思いが強かったですね。だからこそ、銭湯を残すことで地域に人が来るようになるし、地元の人も残ってくれるという期待が行動に表れてきています。
千賀氏:お寺も銭湯も、地域の生活に根づき「やめられない、離れられない」存在として似ていますね。
新元湯さんは下之一色の中でも引力を持つ場所だと思います。そこを拠点にまちづくりをしたい若者が集まれば動けば、他では真似できないフィールドになり得ると感じています。
未来へとつながるための「仕組み」づくり
最後に、SDGsについての意識や継続的な経営、それを支えるデザインの本質について各自が意見を出し合いました。

新井氏:生麩業界は職人の高齢化や後継者不足が深刻で、木型を作る職人さんも少なくなっています。だからこそ、現社長からバトンを受け継ぐ私たちが、未来のファンへ生麩を届ける新しい取り組みを進め、事業を継続していきたいと思います。
杉野氏:新元湯も、経営を継続することで、この文化財級の建物を未来へ残していくことが最大の目標です。そのためには、ホームページなど「見え方」のデザインももちろん重要ですが、「どうやって事業の仕組みをデザインするか」が不可欠だと考えています。
岡田氏:デザイナーの仕事は「価値を変える」こと。見た目のアウトプットに目が行きがちですが、デザインのプロセスを通じて、事業の価値がどう変わったかという点です。その変化にこそ目を向けてほしい。
横地氏:外部の人が「これって面白いですよ」とアドバイスすることで、当たり前だと思っていたことが「自分たちの武器だったんだ」と気づくプロセスは本当に大切だと思います。
千賀氏:お話を聞きながら「自分の会社だったらどうだろうか」「あの会社ならどう活かせるだろうか」という視点をずっと持っていました。複数の目線があることが大切。今日の話についても、ご質問やご意見をいただけると、我々にもまた新しい視点が生まれると思います。
深谷氏:本日を振り返ると、サスティーンナゴヤの取り組みを通じて、皆さんが「新しい価値を見つけられた」と感じていたのがとても印象的でした。その価値が、これから先も持続可能な取り組みにつながっていくんだなと思いました。
デザインは未来を創る経営資源
今回のセミナーを通して見えてきたのは、デザイン=見た目だけ ではなく、
事業の本質的な課題を解決し、新たな価値を創造するための強力な「経営資源」であるということでした。
- 「当たり前」の価値化:どの企業も、外部の視点が入ることで、自社や地域に眠る「当たり前の価値」を再発見し、それを強力な武器に変えた。
- 意識の変容:デザインプロセスは、関わる人々の意識を変え、新たな挑戦への自信と原動力を生み出す。
- 未来への視点:どの取り組みも、目先の利益だけでなく、次世代に事業や文化をどうつないでいくかという、持続可能な未来を見据えている。
自社の強みが見えない、新たな一歩が踏み出せないと悩む多くの企業にとって「答えは自らの中に、そして地域のつながりの中にある」というメッセージを投げかけてくれたセミナーでした。
登壇企業情報

有限会社麩柳商店
明治10年の創業以来、名古屋の生麩を那古野麩として伝統の味と技を守り続けて130年の麩柳商店が日本の伝統食品の健康的で体に優しいスローフードとして、モチモチした食感の生麩をお届け致します。

株式会社レジスタ
株式会社レジスタは、中小企業や寺院、地域団体を対象に伴走型の共創事業支援サービスを提供する企業です。
また、自社をローカル・ゼブラ企業と位置付け、事業を通じた地域課題の解決を目指し、様々なクリエイティブ活動を展開しています。

